IT営業20年の経験を、AIと一緒に「小さなSFA」にしてみた

目次
  1. 先に本音
  2. SFAを入れる前に、営業のルールを決めた
  3. AIに、経験則を言葉にする相手になってもらった
  4. 作ったのは、全部入りではなく「今日やること」が見える仕組み
  5. あえて、自動化しなかったこともある
  6. 小さな会社なら、まず五つの項目から始められる
  7. まとめ

先に本音

提案書を出した。見積書も送った。だから商談は進んでいる。

営業を長く続けていると、ついそう考えたくなる場面があります。でも、こちらが資料を出したことと、相手の検討が前へ進んだことは同じではありません。

相手は、課題を自分の言葉で話しているか。何が解決できればよいかに納得しているか。次に誰と、いつ、何を確認するかが決まっているか。営業の現在地を知るには、こちらの行動ではなく、相手側に起きた変化を見る必要があります。

これは、20年超のIT・システム営業を経験する中で感じてきたことです。一方で、分かっていても、日々の面談やメールに追われると記録が後回しになり、次の行動が曖昧になることもあります。

そこで、自分の営業経験をAIとの対話で整理し、必要な機能だけを持つ「小さなSFA」にしてみました。

SFAを入れる前に、営業のルールを決めた

SFAは、Sales Force Automationの略で、顧客情報や案件の進捗、営業活動を管理する仕組みです。便利な製品は数多くありますが、項目や機能を増やすだけでは、営業が前へ進むとは限りません。

今回、最初に考えたのは「どんなSFAを作るか」ではありませんでした。

考えたのは、面談が終わったあとに何が分かっていれば、次の行動へ移れるかです。

私が残したかったのは、主に次の情報でした。

  • 誰と、いつ接点を持ったか
  • 何を話したか
  • 相手にどんな変化があったか
  • 次に何をするか
  • その期限はいつか

機能から考えるのではなく、営業を前へ進めるために必要な事実から考える。ここが出発点になりました。

AIに、経験則を言葉にする相手になってもらった

長く経験してきた仕事ほど、「何となく分かる」が増えていきます。案件の温度感や、次に聞くべきことを感覚で判断できる一方、その理由を説明しようとすると難しいものです。

AIとの対話で役立ったのは、この感覚をいったん言葉にできたことでした。

たとえば、商談の段階をどう判断するか。最初は「面談した」「提案した」「見積を出した」という区切りが浮かびます。しかし、これはすべてこちら側の行動です。

対話を重ねながら、営業段階は相手側の状態で定義することにしました。

こちらの行動で見る 相手側の変化で見る
メールを送った 相手が時間を使って応答した
面談をした 相手が課題を自分の言葉で話した
提案書を出した 相手が解決したい条件に同意した
見積書を送った 発注や契約の判断手続きが具体化した

こうして並べると、「提案書を出したから進捗あり」とは言い切れないことが分かります。反対に、資料を出していなくても、相手が社内の決裁者を次回の打ち合わせへ呼んでくれたなら、重要な変化が起きています。

AIが営業の正解を教えてくれたわけではありません。自分の経験を問い直し、他の人にも説明できるルールへ変える相手として、AIを使いました。

作ったのは、全部入りではなく「今日やること」が見える仕組み

今回作ったSFAは、自分一人で使うローカルの営業コックピットです。顧客、担当者、案件、接点、営業タスクを分けて記録し、「今日確認すること」が一か所に並ぶようにしました。

面談後は、次の流れを10分以内で確定できる状態を目指しています。

  1. 面談で起きたことを記録する
  2. お礼や宿題をタスクにする
  3. 次回の接点を決める
  4. 案件の段階を変える場合は、理由を残す
  5. 内容を確認してから保存する

特に大事にしたのは、接点を記録するだけで終わらせないことです。「返事待ち」は、次のアクションではありません。いつまで待ち、反応がなければ何をするのか。そこまで決まって、初めて行動になります。

また、案件と顧客も分けました。同じ会社から複数の相談が同時に動くことがあるからです。「この会社は確度が高い」と一括りにせず、どの案件がどの段階にあるかを見ます。

あえて、自動化しなかったこともある

AIと一緒に仕組みを作ると、何でも自動化したくなります。面談記録を自動で読み、案件の段階を変え、次のメールまで送ることも、技術的には考えられます。

ただ、現時点ではそこまで実装していません。

顧客情報はMacの中に置き、接点の保存、タスク化、案件段階の変更には確認操作を入れています。AIによる面談内容の整理や、次に聞く質問の提案は後続の構想です。実装する場合も、候補を出すところまでをAIに任せ、保存や外部送信は人が決める設計にします。

営業には、相手の事情や感情、まだ言葉になっていない迷いが含まれます。効率化できる部分はありますが、判断まで急いで自動化する必要はありません。

まずは記録漏れと次の行動漏れを減らす。その仕組みが実際に続くかを見てから、必要な自動化だけを足す。この順番にしました。

小さな会社なら、まず五つの項目から始められる

今回の実践から感じたのは、最初から大がかりなSFAを導入しなくても、営業の仕組み化は始められるということです。

紙でも表計算でも構いません。まず、一つの案件について次の五つを記録してみます。

  1. 現在、相手側に何が起きているか
  2. その判断を裏づける相手の言葉は何か
  3. 次に確認することは何か
  4. 誰が、いつまでに動くか
  5. 次回の接点は決まっているか

複数の営業担当者がいる場合は、同じ案件について「いま、どの段階ですか。その理由は何ですか」と別々に聞いてみるのも有効です。答えが大きく割れるなら、SFAの機能不足より先に、営業段階の定義をそろえる必要があります。

一人で営業している会社でも、この確認は役立ちます。未来の自分や、将来仕事を引き継ぐ人が、なぜその段階だと判断したのかを読めるようになるからです。

まとめ

今回、AIと一緒に作ったのは、立派な営業システムというより、自分の経験を忘れずに使うための小さな仕組みでした。

営業の進捗は、こちらが何をしたかではなく、相手側にどんな変化が起きたかで見る。面談の記録は、きれいな文章ではなく、次の行動へつなげる。自動化は、運用が続くことを確かめてから足す。

長年の経験は、その人の中にあるだけでは引き継げません。AIとの対話は、経験を言葉にし、ルールにし、仕組みに変える手助けになります。

高価なSFAを選ぶ前に、まず自社では何を「進んだ状態」と呼ぶのか。それを決めるところから始めてもよいと思います。

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井澤 剛士

デザイン経営ラボ丼 代表 / 中小企業診断士 / デザイナー

AIの進化についていくのは、正直しんどい。でも、使い続けることで見えてくるものがある。IT・システム営業20年の現場感と診断士の視点で、同じ悩みを持つ経営者に伴走しています。

💬 AIが営業判断を自動化する話ではありません。営業経験をAIとの対話で整理し、自分が続けられる仕組みにした記録です。

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