IT営業20年の経験を、AIと一緒に「小さなSFA」にしてみた
目次
先に本音
提案書を出した。見積書も送った。だから商談は進んでいる。
営業を長く続けていると、ついそう考えたくなる場面があります。でも、こちらが資料を出したことと、相手の検討が前へ進んだことは同じではありません。
相手は、課題を自分の言葉で話しているか。何が解決できればよいかに納得しているか。次に誰と、いつ、何を確認するかが決まっているか。営業の現在地を知るには、こちらの行動ではなく、相手側に起きた変化を見る必要があります。
これは、20年超のIT・システム営業を経験する中で感じてきたことです。一方で、分かっていても、日々の面談やメールに追われると記録が後回しになり、次の行動が曖昧になることもあります。
そこで、自分の営業経験をAIとの対話で整理し、必要な機能だけを持つ「小さなSFA」にしてみました。
SFAを入れる前に、営業のルールを決めた
SFAは、Sales Force Automationの略で、顧客情報や案件の進捗、営業活動を管理する仕組みです。便利な製品は数多くありますが、項目や機能を増やすだけでは、営業が前へ進むとは限りません。
今回、最初に考えたのは「どんなSFAを作るか」ではありませんでした。
考えたのは、面談が終わったあとに何が分かっていれば、次の行動へ移れるかです。
私が残したかったのは、主に次の情報でした。
- 誰と、いつ接点を持ったか
- 何を話したか
- 相手にどんな変化があったか
- 次に何をするか
- その期限はいつか
機能から考えるのではなく、営業を前へ進めるために必要な事実から考える。ここが出発点になりました。
AIに、経験則を言葉にする相手になってもらった
長く経験してきた仕事ほど、「何となく分かる」が増えていきます。案件の温度感や、次に聞くべきことを感覚で判断できる一方、その理由を説明しようとすると難しいものです。
AIとの対話で役立ったのは、この感覚をいったん言葉にできたことでした。
たとえば、商談の段階をどう判断するか。最初は「面談した」「提案した」「見積を出した」という区切りが浮かびます。しかし、これはすべてこちら側の行動です。
対話を重ねながら、営業段階は相手側の状態で定義することにしました。
| こちらの行動で見る | 相手側の変化で見る |
|---|---|
| メールを送った | 相手が時間を使って応答した |
| 面談をした | 相手が課題を自分の言葉で話した |
| 提案書を出した | 相手が解決したい条件に同意した |
| 見積書を送った | 発注や契約の判断手続きが具体化した |
こうして並べると、「提案書を出したから進捗あり」とは言い切れないことが分かります。反対に、資料を出していなくても、相手が社内の決裁者を次回の打ち合わせへ呼んでくれたなら、重要な変化が起きています。
AIが営業の正解を教えてくれたわけではありません。自分の経験を問い直し、他の人にも説明できるルールへ変える相手として、AIを使いました。
作ったのは、全部入りではなく「今日やること」が見える仕組み
今回作ったSFAは、自分一人で使うローカルの営業コックピットです。顧客、担当者、案件、接点、営業タスクを分けて記録し、「今日確認すること」が一か所に並ぶようにしました。
面談後は、次の流れを10分以内で確定できる状態を目指しています。
- 面談で起きたことを記録する
- お礼や宿題をタスクにする
- 次回の接点を決める
- 案件の段階を変える場合は、理由を残す
- 内容を確認してから保存する
特に大事にしたのは、接点を記録するだけで終わらせないことです。「返事待ち」は、次のアクションではありません。いつまで待ち、反応がなければ何をするのか。そこまで決まって、初めて行動になります。
また、案件と顧客も分けました。同じ会社から複数の相談が同時に動くことがあるからです。「この会社は確度が高い」と一括りにせず、どの案件がどの段階にあるかを見ます。
あえて、自動化しなかったこともある
AIと一緒に仕組みを作ると、何でも自動化したくなります。面談記録を自動で読み、案件の段階を変え、次のメールまで送ることも、技術的には考えられます。
ただ、現時点ではそこまで実装していません。
顧客情報はMacの中に置き、接点の保存、タスク化、案件段階の変更には確認操作を入れています。AIによる面談内容の整理や、次に聞く質問の提案は後続の構想です。実装する場合も、候補を出すところまでをAIに任せ、保存や外部送信は人が決める設計にします。
営業には、相手の事情や感情、まだ言葉になっていない迷いが含まれます。効率化できる部分はありますが、判断まで急いで自動化する必要はありません。
まずは記録漏れと次の行動漏れを減らす。その仕組みが実際に続くかを見てから、必要な自動化だけを足す。この順番にしました。
小さな会社なら、まず五つの項目から始められる
今回の実践から感じたのは、最初から大がかりなSFAを導入しなくても、営業の仕組み化は始められるということです。
紙でも表計算でも構いません。まず、一つの案件について次の五つを記録してみます。
- 現在、相手側に何が起きているか
- その判断を裏づける相手の言葉は何か
- 次に確認することは何か
- 誰が、いつまでに動くか
- 次回の接点は決まっているか
複数の営業担当者がいる場合は、同じ案件について「いま、どの段階ですか。その理由は何ですか」と別々に聞いてみるのも有効です。答えが大きく割れるなら、SFAの機能不足より先に、営業段階の定義をそろえる必要があります。
一人で営業している会社でも、この確認は役立ちます。未来の自分や、将来仕事を引き継ぐ人が、なぜその段階だと判断したのかを読めるようになるからです。
まとめ
今回、AIと一緒に作ったのは、立派な営業システムというより、自分の経験を忘れずに使うための小さな仕組みでした。
営業の進捗は、こちらが何をしたかではなく、相手側にどんな変化が起きたかで見る。面談の記録は、きれいな文章ではなく、次の行動へつなげる。自動化は、運用が続くことを確かめてから足す。
長年の経験は、その人の中にあるだけでは引き継げません。AIとの対話は、経験を言葉にし、ルールにし、仕組みに変える手助けになります。
高価なSFAを選ぶ前に、まず自社では何を「進んだ状態」と呼ぶのか。それを決めるところから始めてもよいと思います。