東大・松尾豊教授の講座を受講して、今、現場目線での気づき。
目次
まず正直に前置きをしておきます
「東大の講座を受けた」と書くと、なんだか大げさに聞こえるかもしれないので、最初に説明しておきます。
受講したのは、松尾研(東京大学大学院 松尾豊研究室)が主催する「AI Business Insights(AI経営 寄付講座)」というオンライン講座です。東大生になったわけではありません。学生も社会人も受講できる講座で、2026年春は受講者数が1万人を超えた、今注目されているプログラムです。
社会人の受講料は33,000円。私は京都芸術大学の通信課程に在籍しているため、学生枠で無料で受けることができました(京都芸大には、アートとデザインを改めて体系的に学び直したくて通っています。話すと長くなるので、いつか別の記事で)。
担当教員の松尾豊教授は、日本のAI研究の第一人者で、政府のAI戦略にも深く関わっている方です。講座に登場するゲスト講師も、国内外の第一線で動いている方々が多く、内容は本物でした。
その上で、中小企業の経営支援をしている診断士として感じたことを、できるだけ正直に書きます。
講座で学んだこと──先端はやっぱり大手向けだった
講座の内容は、率直に言うと大手企業を前提にした話が多かったです。
フィジカルAI(ロボットや製造ラインへのAI組み込み)、RAG(大規模な社内文書をAIで検索する仕組み)、RPA・ERP連携(大型の業務システムとAIをつなぐ話)、自動運転、大規模なデータ基盤の構築……。登場するゲスト講師も、大手企業のAI推進者や責任者が中心で、話される事例もそれに準じた規模感のものが多かったです。
受講中、正直なところ「これ、うちの支援先である中小企業には関係ないな」と思う場面が何度かありました。
でも、それは半分正しくて、半分間違いでした。
帰り道に気づいた「翻訳」という考え方
ある回の講義を終えたあと、ふと気づいたことがありました。
大手がやっていることと、中小企業にできることの間にある差は、技術の「格」の差ではなく、スケールの差だということです。やっていることの本質は同じ。ただ、規模と使うツールが違うだけ。
「大手がRAGをやっている」→ 中小企業はGoogle NotebookLMに社内マニュアルを入れて質問する。それだけで同じことができる。しかも無料で、今日から。 ※ Google NotebookLM:Googleが提供する無料のAIツール。PDFやテキストをアップロードするだけで、その内容についてAIに質問できる。専門知識不要。
「大手がRPA・ERP連携をやっている」→ 中小企業はZapier や MakeでGmail・スプレッドシート・Notionを繋ぐ。月数千円で、コードも不要。 ※ Zapier・Make:アプリ同士を自動で連携させるノーコードツール。「メールが届いたらスプレッドシートに記録する」といった自動処理を、プログラムを書かずに設定できる。
この「翻訳」の視点を持つだけで、先端の事例がぐっと身近になります。
大手のAIを中小企業語に訳すと、こうなる
| 大手がやっていること | 中小企業版の現実解 | コスト感 |
|---|---|---|
| RAG(社内文書AI検索) | Google NotebookLMにマニュアルをアップして質問する → Googleの無料AIツール。資料をアップすると、その内容をAIが読んで答えてくれる |
無料※ |
| RPA・ERP連携 | Zapier や Makeでメール・スプレッドシート・通知を自動化 → プログラムを書かずにアプリ同士を繋ぐノーコードツール。「〇〇が届いたら△△する」を自動化できる |
月2,000〜5,000円※ |
| フィジカルAI(設備点検) | スマホカメラ+AIで外観確認・帳票読み取り → 特別な機器不要。スマホで写真を撮ってAIに送るだけで判断・読み取りができる |
使った分だけ※ |
| 大規模LLM基盤構築 | Claude / ChatGPT をそのまま使う → AIチャットツール。文章を書く・要約する・質問に答えるなど幅広く使える。月額制で利用可能 |
月3,000〜6,000円※ |
※ 料金・プランは2026年5月時点の情報です。変動する場合があります。ご利用前に各サービスの公式情報をご確認ください。
大手が億単位の予算をかけてやっていることの「本質」は、月数千円のツールで再現できます。もちろん規模は違う。でも目的は同じことができる、という感覚です。
大手が論じない、中小企業だけの武器がある
そして、講座を通じて気づいたもっと大きなことがありました。
大手企業が取り組むAIの論点は、「いかに高度なシステムに組み込むか」「いかにセキュリティを確保して全社展開するか」が中心になります。それはそれで重要なんですが、中小企業の現場には、まったく別の問題がある。
それは「そもそもパソコンが苦手な人がいる」という問題です。
大手の講義では、この話は一切出てきませんでした。でも私が支援している中小企業では、これが一番大きな壁だったりします。キーボード入力が遅い、Excelが苦手、ファイルの保存場所がわからない……。そういう社長や従業員さんが、現実にいます。
ところが、今のAIはこの問題を先に解決してしまっているんです。
キーボードが苦手でも、もう関係ない
音声入力の精度が、ここ1〜2年で劇的に上がっています。多少の言い間違いや表記ゆれも、AIがちゃんと拾ってくれます。
マイクに向かって「〇〇株式会社の田中さんに、来週の打ち合わせの日程確認メールを書いて」と話すだけで、メールの下書きができます。キーボードはいりません。
ちょっと前まで、こういう「自然言語で操作する」ことはSF的な話でした。今は普通にできます。プログラマーの間では「バイブコーディング」と呼ばれる(話しかけながらプログラムを作る)手法が広まっていますが、それの業務版が、すでに動いているという感覚です。
FAXも紙も、今すぐデータになる
「うちはまだFAXが多くて」という会社、珍しくないですよね。
スマホで写真を撮ってAIに渡すだけで、FAXの内容をテキストに変換して、Excelに転記して、必要な情報を抜き出す——これが今できます。専用のOCRシステムを入れる必要はありません。
紙の受発注書も同じです。写真を撮る、AIに渡す、データになる。この3ステップで、紙文化が根強い会社でもデジタル化の入り口に立てます。
「こうして」と言えば、書類ができる時代
「〇〇社に、品番△△を100個、単価500円で発注したい」と話すだけで、発注書の形になってくる。
これを聞くと「本当に?」と思う方もいると思います。でも今は、本当にこのレベルで動きます。もちろん最後の確認は人間がやる必要がありますが、「書く」という作業のほとんどをAIが引き受けてくれるようになっています。
マイクとマウスがあれば仕事が回る、というのは言い過ぎではなくなってきました。
中小企業がAIで有利な、3つの理由
大手の講座を受けて逆に見えてきたのは、中小企業の方がAI活用でアドバンテージを持てる場面があるということです。
1. 意思決定が速い。 大手はAIを導入するだけで、IT部門の承認、情報セキュリティ審査、変更管理のプロセスが必要になります。中小企業は「やってみよう」と決めたら明日から試せる。この身軽さは本物の武器です。
2. レガシーがない。 20年前に入れた基幹システムを引きずっている大企業は、新しいAIツールとの連携で苦労します。小さい会社は、そもそも重いシステムを持っていないことが多い。スモールなツールで十分回ります。
3. 一人あたりの効果が大きい。 10人の会社で1日2時間が浮くのと、1万人の会社で1日2時間が浮くのでは、組織に対する比率が全然違います。中小企業ほど、AIの導入効果が経営に直接響きます。
まとめ──難しいのは技術じゃなく、最初の一歩
東京大学の講座で先端を学んで、正直「中小企業には遠い話だな」と思う瞬間がありました。でも同時に、「翻訳さえすれば、本質は同じことができる」という確信も持てました。
AIは難しくありません。難しいのは技術ではなく、最初の一歩を踏み出す判断です。
何から始めればいいかわからない、自社に合う使い方がわからない、社員に定着させる自信がない——そういう相談を、最近とても多くいただくようになっています。
私がやっているのは、先端を知りながら、現場で試しながら、「この会社にはここから入るのが一番回りやすい」を一緒に考えることです。難しい技術を押し付けるのではなく、今できることの中で一番効くものを探す。そういう伴走です。
もし気になることがあれば、気軽にご相談ください。初回は無料でお話しします。
修了証について
この記事で言及した講座の修了証です。学生・社会人向けオンライン講座(社会人受講料:33,000円)の修了証であることを明記した上で、参考として掲載しています。
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※ AI Business Insights(AI経営 寄付講座)は、松尾研が主催する学生・社会人向けオンライン講座です(社会人受講料:33,000円)。東大への入学・在籍とは異なります。2026年春の受講者数は1万人超。